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2013/01/07

【MTG:背景小説私家訳】Return to Ravnica: The Secretist, Part One サンプルチャプターその2

前回の続きで、ラヴニカへの回帰小説である「The Secretest Part One」(日本のKindleストアではこちら)のサンプルチャプター


Return to Ravnica: The Secretist, Part One
http://media.wizards.com/images/magic/merchandise/ebooks/The_Secretist_Part1_CH1.pdf

を訳出します。

サンプルですがそこそこ長いので、段落ごとに数回に分けて掲載していきます。
あくまで英語力の低い筆者の勉強として訳してますので全くの誤訳や勘違いなども存在する可能性があります。もし見つけられた方はご教示くださると嬉しく思います。





The Secretist(秘密主義者)

 地下の数時間の移動を要する地底街の忘れられた室の中、古えの煉瓦作りの壁は輝き始めた。青い稲光が煉瓦の角に沿って踊った。古いモルタルは煙を上げて音を立てて焼け付いた。室の壁は爆発して煉瓦が山となって雪崩れ込み、後にはざっくりとした楕円形の穴となった。

 プレインズウォーカーのラル・ザレックは彼がたった今作った穴を通り抜けた。彼の篭手に取り付けられた器具が薄らいでいく呪文によるマナを震わせて錐揉みさせた時、湿って腐った空気の中で埃が渦を巻いた。

 ラルはたじろいで鼻の上に手をやり、煉瓦をブーツで蹴って鼻を鳴らした。
「うげぇえ。スクリーグ、ここがその場所だなんて言うなよ」
 イゼットの装甲服に身を包んだゴブリンが室の中に飛び込んで、手を握りしめて辺りを見回した。ゴブリンは自分の荷物を引っ掻き回して探り、新設計のイゼット式マナ感知装置を取り出して室で振り回した。

「へぇ!」
スクリーグは答えた。
「ここらが一番濃度が高いです! ここに違いないです!」

 イゼットの魔道士の一団がラルとスクリーグの後に続いて室の中に入り、湿っぽい霞を魔法のエネルギーで照らして分析呪文と錬金術装置で周囲を調べた。

 ラルは垂れ下がった苔の垂れ幕を脇に押しやり、古代の倒れた円柱を跨いで室を進んだ。彼はひょろひょろした根に覆われた何かを調べようと膝を着いた。その塊から苔むした蔓を毟り取ると、彼は後退りした。葉の向こうで頭蓋骨の灰色の顔がちょっぴり残ったギザギザの歯を見せて微笑んでいた。ラルは呼吸を整え、「闘争か逃走か」という衝動に対処した。

「準備はいいか?」
 彼は他の連中へと振り返って尋ねた。
「スクリーグ、マナコイルだ。充電できているな」

 スクリーグは螺旋状の青銅の彫刻を床の上に置いた。他のイゼットの研究者魔法使いはその錬金術装置を取り囲んで作戦に大わらわとなった。真紅と碧翠の宝玉がそのアーティファクトの端を照らし、そしてそれは穏やかに低い唸り音をたて始めた。

「もうすぐです、旦那」
 ゴブリンが言った。
「もうすぐ? 偉大なる火想者が”もうすぐ”なんてものに満足するとでも?」
「申し訳ないです、同志。だけどもうちょっと時間がコイルには――」

「もっといいマナ源に繋げ」
 ラルはぴしゃりと言った。
「もしこの室が力線の上にあるなら、この底にはマナの源があるに違いない――多分、何世紀も使用されていないだろう古い源がな」
「ここには実際に深い源があります」
 他のイゼット魔道士が発言した、彼女の目は閉じられていた。

「だけどコイルが焼き付きますぜ」
とスクリーグ。
「そいつはマナに直に繋がっちまいます。そんな多すぎるパワーは――」

「全てのマナを直接俺に繋げ」
 ラルは言った。
「それが我々が追っている力線かどうか、俺には直ぐに判る」

 虫の鳴く声が室に続く古えの回廊に谺した。イゼットの魔道士たちは凍りついた。

「誰かいるのか?」
 ラルは回廊に向かって呼びかけた。
 彼はなんとか見ようとしたが、彼らの装備からの明かりではこの闇を穿つことは出来なかった。まるで陶器に卵の殻を擦り付けるような擦過音――そして更なる鳴き声が響いたが今度は足音も伴っていた。多くの足音が。

「貴様らの不自然な実験を止めろ」
 薄暗がりから罵声が飛んだ。
「この場所から立ち去れ。ギルドマスター、ジャラドはここをゴルガリ団の領域と宣言している」

 青白い、ドレッドロックのエルフと人間たちの小集団が明かりの中へと進み出た。その縺れた髪に編み込まれた骨の欠片と岩屑は軽くカタカタと音を立てた。押し寄せる彼らの押し寄せる彼らの甲殻質の鎧は肩を菌類の苗床として艶やかに苔むしており、小さく騒々しい昆虫たちが出入りしていた。甲高い音をたてている連中やその虫達がゴルガリであるかどうかは、ラルには確信が持てなかった。彼らの内の少数が短刀を持っていたが、ほとんどは武装していなかった。魔法使いだ。

 語り手であるエルフの女性は節くれだった杖を握りしめた。彼女は大きな鼠の頭骨で飾られた先端をラル・ザレックへと直接向けた。
「さあ、今すぐ明け渡せ」

 ラルは掌を振ってみせた。
「ここは壊れて放棄されたトンネル以外の何物でもない。誰のものでもないさ」
「文明社会が放棄したものは全て、我々が得る」
 ゴルガリのエルフは嘲笑した。

「まぁ、自分が這い出してきた割れ目にでも引っ込んでな。ドラゴンのニヴ=ミゼットは今この区域を――そして彼がイゼット団に適切だと見做す未使用の土地は如何なる残り物であろうと領有宣言する」

 ゴルガリ団員たちの不平は言葉にならずに喉を鳴らした。ラルは自分が聞いたのは殆ど唸りだと思った。

「この種の侵害はギルドパクトの下においては違法とされただろう」
とエルフは言った。

「で、今はギルドパクトは無いよな? 失せな。ドラゴンは自分の発見の成果をお預けにされるのが嫌いだ」

 エルフのシャーマンは再び嘲笑したが、その顔を伏せて後退りしていった。そしてゴルガリ団の残りも彼女と共に暗がりの中へと撤退した。シャーマンが鼠の頭骨の杖を降った時のカタカタ鳴る音を最後に、静寂が訪れた。

 静寂の中。スクリーグは溜息を漏らした。
「やっと終わってくれた」

 彼がそう言った途端、イゼット探検隊の周り中に黒い姿が命を得てぎくしゃくと動いた。白骨化した死体は立ったままの姿勢で震え、廃棄物の山々は菌類の腐敗魔となり、腐った苔が骨の欠片とともに畝って多足形態となって起き上がり、敵意ある鉤爪を振り回して陰気な金切り声を上げていた。

「腐れ住まいの下水エルフめ」
 ラルは悪態をついた。彼は素早く他のイゼットの魔道士へと頭を向けた。
「何をグズグズしているんだ? そいつらを破壊しろ!」

 イゼット団員たちは慌てて魔法を使おうとしたが、ゴルガリの廃物ゾンビたちは凄まじい速度で彼らへ飛びかかった。ゾンビの鉤爪が彼を掴んで恐ろしい貪欲な口に向かって持ち上げた時、スクリーグは悲鳴をあげた。ラルは腐敗生物に稲妻を投げつけ、ちょっとの間そいつをバラバラにした。その不死のものどもの蜘蛛の巣まみれの残骸が生き物の形へと寄せ集まって再び組み立てられた時、スクリーグは床の泥へと倒れた。

 ラルは実験装置から青銅の導線を掴んでそれを武器にしようとした。一本を不死の怪物へと鋭く突き入れたが、それは通電していても辛うじて怪物の灰色の肉を焦がしただけだった。それは他の生き物の心臓を止めることは出来ただろうが、屍術によって動く獣の心臓――もしあるとすれば――はとっくに止まっていた。

 まるで袋の口の紐を堅く締めるかのごとく魔道士たちを押し包んで、ゾンビたちは群れとなって攻撃した。ラルはギルド仲間たちが絶叫するのを聞いた、そして幾つもの蔓が彼の腕や首を激しく鞭打ち始めた。

「何かにしっかり掴まってろ」
 ラルはそう言うとマナ導線を直接自分の篭手に押し込んだ。

 ラルの瞼はヒクヒクしだした。室の中にどこからともなく風がたち起こり、ラルは総毛立った。ゾンビ化した手が彼を掴んでゾンビの大群へと彼の体を引きずっていこうとした時、嵐の力の小さな電弧がその体の周りで音を立てて弾けた。空気は過剰運動の魔力で満ち、ラルは自分が床から数インチ浮くのを感じた。彼に聞こえるのは、力が過熱した蒸気釜のように唸りを上げる音だけだった。可能な限りのマナを吸収しようと力を込めるにつれ、彼の視界は白く弾けていった。新しく生まれた太陽のごとく、ラルの全身で力が爆発した。全ては騒音と光となり、次に静寂と暗闇になった。彼には何も――見ることも聞くことも出来なかった。

 ラルは奇妙な鼓動を感じ、数瞬の後にそれは自分の過剰に負担をかけられた心臓だと判った。次に自分が息をしていることに気付いた。それは彼が何とかして生き残った証だった。
 誰かがランプに灯を点けた。ラルは再び物理的な対象物を見たが、今度は濃霧の中でだった。周囲の現状が彼にだんだんと見えてきた。彼はこの室が埃のもやと爆発によって壊れた残骸と化したのを認識した。

「怪我は無いか?」
 彼は咳き込んだ。

「大丈夫だと思います」
 黒焦げにされながらも生きていた一人のイゼットの魔道士が言った。

「お陰を持ちまして」
 スクリーグはもやの中から現れた。

 ゴルガリ団の不死のものどもは魔力のうねりの連鎖によって壊滅した。天井からは煉瓦の破片が落ちて古い石工の技を晒していた。

 ラルはこれまで感じたことの無かった程に生の実感を得た。彼の心臓はあまりにも速く打ったが、それを好ましく思った。

「スクリーグ」
 ラルは言った。

「マナコイルだ。再始動しろ。実験を完了させるぞ」

「え?」
 一人のイゼットの研究者が言った。

「なんだね?」

 その魔道士は天井の、爆発でむき出しになった古い石の部分を見上げていた。

「これをご覧になったほうが良ろしいのでは」


(その3に続く)

ラルがついに登場しました。DotP2012でも書かれていた通り、危険大好き!スリル大好き!という、なかなかのイゼットっぷりです。
とりあえず爆発させとけ的場当たり感がいいですね。

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